ソフトクリームと教習所の未来
事務員「この券を受付に出すとソフトクリームが無料で食べられます。」
え?教習所でソフトクリーム?!
少子化で若者の比率がどんどん減少しているので、当然ながら昔と違って教習所の経営は厳しいに違いない。恐らく震災の風評被害も追い打ちをかけているだろう。教習所のいたるところで生徒数を増やすための様々な企業努力が垣間見えた。ロビーでソフトクリームが食べられたり、カラオケボックスが併設されていたり、オンライン学習システムやスマホの教習アプリが使えたり・・・
合宿期間中に国土交通省から自動ブレーキの義務化が発表された。近い将来、教習車にも自動ブレーキが装着され、教習内容にも関連知識が追加されるだろう。今後は自動運転の技術も急速に発達し、そう遠くない未来に人がハンドルを握らなくなる時代が到来するだろう。
教習所を取り巻く環境はこれからも変わり続けるけれど、これまで通り企業努力を続け、俺の思い出の場所をこの先もずっと残していただきたいと切に願っている。
オール・ファイブスター
日が経つにつれてこの教習所をどんどん好きになっていったのだが、唯一、腑に落ちないことがあった。技能教習が終わった後、毎回教官を評価するアンケート用紙を提出することになっているのだが、これは教官にとって少々酷なシステムではないかと感じていた。
たしかにひと昔前、教習車内は完全なブラックボックスだったので、セクハラやパワハラが横行していたと聞いている。その頃であれば生徒にアンケートを取ることもある程度の意味はあっただろう。しかし今はテクノロジーでいくらでも管理することができる。
俺は仕事で業務用のドライブレコーダーを販売していた時、教習所でパワハラやセクハラ削減にドライブレコーダー(インカメラ・車内録音機能)が一役買っていることを営業トークに組み込んでいたほどだ。
テクノロジーを活用した管理体制によって教官のレベルがある程度まで達していれば、生徒にアンケートを取る必要はないし、むしろアンケートが教官の正統な評価を阻害する恐れがあると思った。
なぜならアンケートは、若者と馬の合わない年配の教官や若者に愛想よく振る舞うことができない生真面目な教官が正当な評価を受けられなくなる可能性があるからだ。つまり単なる人気投票になってしまう可能性が高い。教官の指導レベルが上がるのと、生徒に好かれる教官になるのは全く別の話だ。
因みに俺が提出したアンケートは全て「★5」の最高評価とした。
お客様ではなく生徒です
教習所の口コミ情報を見てみると「受付の態度が悪い」など酷評が多い。はて?レストランやカフェにでも通っているつもりなのだろうか?お金を払っているのだから、愛想よくされて当然みたいな言い分だ。
では実際の受付の仕事ぶりはどうなのかというと、至って普通であった。むしろ少ない人数でよく回していると思った。事務員なのだから事務的に対応して叱るべきで、業務内容から考えればいちいち愛想よく振る舞えと言う方が土台無理な話である。
俺が通ったところに限らず、教習所の口コミ情報はなぜこれほどまでに酷評が多いのか。理由は、現代の若者が自分を否定されることに慣れていないのが原因だと推測する。
俺は離職率の高い職場で次から次へと入れ替わっていく若者と長年関わってきたので、若者の心理は手に取るようにわかるし、扱いにも慣れている。
最近の若者は人と比べられて劣っているところを指摘されるのがすこぶる苦手で、ちょっとした指導でも自身を全否定されたような気分になってしまう。どうにか自尊心を保とうとして教習所の粗探しを始め、ネットに不満をぶちまけるというカラクリだ。
物事を教わるのに謙虚な気持ちで臨むことを知らなければ、何をどう教わっても決して満足することはできないものだ。少々古臭い昭和の考え方と言われようが、未来永劫、自己否定を繰り返して人は成長していくことに変わりはない。
義務教育で通う学校では、モンスターペアレンツに怯える教師が生徒に対してまるでお客様のように優しく接することしかできなくなってしまっていると聞いている。
たとえお金を払っていても、命に関わる運転技術を教える自動車教習所では、お客様ではなく生徒という意識を持って臨むべきだろう。