あの日にかえりたい
卒業検定を目前に控えたある日、一時間ほど予定が空いたので二階の待合スペースの窓際の席から山並みに沈む夕日をボーっと眺めていたら、ふと二十年前の合宿免許期間中に起こったある出来事を思い出した。
宿舎で仮免テストの勉強をしていたら、俺を地元の駅の改札口で見送ったはずの彼女が突然サプライズで現れたのだ。
俺「えー?!なんでいるの?!なにやってんのーー!」
彼女「だって寂しかったんだもん・・・」
教習所の近くの公園のベンチに並んで座って、たった数日間の出来事をまるで何年も会っていなかったかのように夢中で話す彼女。夕日に染まる彼女の横顔を眺めながら、俺はこの人と一生一緒に居るのだろうなと思った。
実際は三年後に別れてしまったのだが・・・
俺の中では、人生で一二を争うほど最高の想い出だったはずなのに、今まですっかり忘れてしまっていた。福島のゆったりとした時間の流れが俺を希望に満ちていた二十年前の世界線に一瞬だけタイムリープさせてくれたのかもしれない。
スリルドライブ
いよいよ路上検定(卒業検定)の日を迎えた。走る経路は五つ用意されていて、くじ引きで決定される。教官から経路を覚える必要はないと言われていたが、俺は念のため教えてもらった全コースを例のごとくストリートビューを活用して全て頭に叩き込んだ。
そして俺は危なげなくゴール地点へ到達し、教官からは「丁寧な運転でした」と褒められたので、発表を待たずして合格を確信した。一方、Yくんはどうだったかというと・・・
俺はYくんの運転する車の後部座席に乗っていたのだが、左折時に自転車に乗った子供を巻き込みそうになったり、路上停車の時に植え込みの植物にガサガサーっと擦ったり・・・結構なスリルドライブをブチかましていた。
教官がいつ「はい、検定終了」と言うのではないかとビクビクしていたが、なんとかゴール地点まで到達した。
結果は二人とも合格。
電光掲示板に二人の受験番号が表示された瞬間、二人のハイタッチの音が一階のロビーに響き渡り、長いようであっという間だった合宿免許の終わりを告げた。
クリスマス・アップデート
いわき駅で大好物の「ままどおる」を購入してから特急に乗り込む。
そして、合宿から戻った翌々日のクリスマス。俺は例のごとく用意周到に準備を重ねて臨んだ免許センターでの本試験に危なげなく合格し、晴れて車社会への復帰を果たしたのだった。
免許センターからの帰り道、バスの車窓を眺めながら、合同プロジェクトに配属→免許失効→入院→手術→休職→退職→父の事故→引越し→合宿→免許再取得までの日々を思い返していた。
そして、「もう一度、人生仕切り直しだ!」と心の中で呟いた。
完