佐藤舞(サトマイ)はDaiGo 2.0になれるのか?
副業の関係で、この1年に自己啓発本を約100冊読んできたが、その中でベスト5に入る内容だったので、簡単に感想をまとめてみたい。
本書のテーマは「時間」とされているが、実際には自己肯定感、認知バイアス、自己理解、やりたいことの探求、才能の発見、適職診断、即行動、時間管理など、自己啓発本で頻出するテーマを、サトマイ流のロジックと哲学で繋ぎ合わせ、誰にでもわかりやすくアレンジした内容だった。
革新性という点では際立ってはいないものの、自己啓発本の著者によく見られる安易なリフレーミングの指南や、薄っぺらい主観は一切なく、むしろ海外のベストセラーに多いエビデンス重視の分析を基盤とし、サトマイの優れたバランス感覚や俯瞰力、批判的思考が見事に融合した良書だった。
一方で、思考を停止して答えを求める、いわゆる「なんちゃって意識高い系」の人々にとっては、第2章を読み終えずに挫折してしまうほど退屈に感じる可能性があり、それがこの本の唯一の弱点かもしれない。
サトマイのファン層にはそのような人々は少ないと見込んでのことだろう。
今後、著作を重ねる中で(年2冊の出版が目標とのことだが)、あえて思考停止した層をターゲットにした部数の伸びやすい本を作り、信者と収益を増やす道を選ぶのか、それともそういった層をあえて切り捨て、ある程度の質を保ったファン層を維持していくのか、どちらの方向に進むのか注目したいところだ。
出版社の視点から前者を選べば、一時期流行したビジネス系インフルエンサーのように、本の売上やサロン会員数が伸び、関連するサブスクリプションビジネスも安定するだろう。
しかし、彼女のスタンスを考えると、安易にその道を進むとは考えにくく、その点で今後の展開が非常に興味深い。
自己啓発本をある程度読むと見えてくるのだが、多くは出版社主導で企画され、一定の市場規模を持つセグメントに向けて、権威性のある人物が凡庸で何者にもなれない人々をなだめすかし、一時的な高揚感を与えるために作られたものが多い。
特に社会的弱者をターゲットに自己啓発本を量産する、いわゆる「著作家」と呼ばれる人々が書いたものには酷いものも多く、20代そこそこの若者が読むと、その再現性の低さゆえに有害となり得る作品も少なくない。
だからこそ、今作が良書であっただけに、今後の著作が上記のような作品にならないことを願うばかりだ。
たとえば、DaiGoさんや鈴木祐さんのようなエビデンス至上主義(に近い)本を量産することは、サトマイにとって容易いかもしれない。
しかし、もう一歩踏み込んだ本作のような柔軟な思想を含む本を年2冊リリースするのは、至難の業ではないだろうか。
もしこれが可能であれば、DaiGoさんの進化系「DaiGo 2.0」という称号がふさわしいだろう。
今後、エビデンスのある複数の事象を再現性を保ちながら高いレベルでどう組み上げていくのかが、当面の彼女の課題となるだろうと考えている。
最後に、本書の冒頭で語られている「業間休みの謎」について触れておきたい。この謎は、私もこれまで何度も家族や友人に投げかけてみたが、ほとんどの場合、相手の興味を引かず、推察する気も起きないようで、正直がっかりしていた。しかし、サトマイも私と同じ感覚を持っていたことに、非常に興奮した。読了後の率直な感想として、「冒頭が一番の盛り上がりだった」と付け加えておく
何はともあれ、サトマイの今後の著作は漏れなく購入させていただくことが私の中で確定した。