遠い日の歌声、初めての恋

mizunohoshi001

小学4年生の頃、学校が終わると、私は友人のあつしの家に毎日のように入り浸っていた。

あつしの家は裕福で、最新式のラジカセやおもちゃが揃っていた。特にガンプラコレクションは見事で、彼の部屋にはZガンダムやガンダムMk-Ⅱなどお気に入りの機体が所狭しと飾られていた。

しかし、あつしの思い入れが薄いジオン系の機体の一部はパーツ用として解体され、段ボール箱の中に雑然と放り込まれていた。私は小遣いが十分にもらえず、自分でガンプラを買うことができなかったため、箱の中のパーツを組み合わせて、オリジナルのモビルスーツを作る事に毎日夢中になっていた。

あつしはいつも、その光景を少し哀れむような目で見ていた。

友人たちが毎日集まっては漫画を読んだり、ゲームをしたりしていた中、私の耳に心地よく響いていたのはラジカセから流れる『水の星へ愛をこめて』だった。

アニメのオープニングで聴いた時には何故かそれほど心に残らなかったが、自分の作り上げたモビルスーツをいじりながら想像の世界を漂っている俺の脳内に響いたその声は、透明で美しく、私がこれまで聴いた中で最も魅了された声だった。その歌声の持ち主は、きっととびきり美しい少女に違いないと私は確信していた。

そして、彼女の歌声は私に初めての淡い恋心を抱かせた。

しかし、その後、初恋の相手をそれ以上知ることなく、時は過ぎ去っていった。

10年以上が経ったある日、バラエティ番組を観ていると、元祖バラドルとして飛ぶ鳥を落とす勢いの森口博子さんが「実は私、ガンダムの歌でデビューしたんですよ!」と言って思い出の曲を歌いだした。

その瞬間、私の淡い初恋の記憶が蘇り、そして儚く消え去った。だが、不思議と悲しみは感じなかった。

森口博子さんの歌声は今も素晴らしく、聴くたびに甘酸っぱい思い出を呼び覚ます。

『水の星へ愛をこめて』は、いくつになっても私にとって特別な曲だ。