グラン・トピアの十戒

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旅立ちロールプレイ

「つまり、俺たちと一緒に旅をしたいってことか」フラップが訊ねた。

「ああそうだ。『旅に同行したい』という言葉にそれ以外の意味があるのか?」

つい先刻、エレオニールが竜牙亭りゅうげていを出た二人を呼び止めて、旅への同行を申し出たのだ。

フラップは内心で厄介なことになったと頭を抱えた。

「エレオニール、お前も知っているとは思うが、俺たちはその――」

フラップがリンネに視線を向けて言葉を詰まらせる。

「承知の上だ。むしろ好都合とでも言っておこう」エレオニールがフラップの言葉を待たずに答えた。

「あなたが一緒に旅してくれるなんて夢みたい! あっ、私はギルドに所属してないからまだ無職なの。だから最初は役に立たないかも知れないけど、薬草にはかなり詳しいから怪我の手当てなら任せて」

リンネは凄腕の探求者シーカーの申し出に興奮しきっている。

フラップは困り果てた表情で返答できずに一点を見つめてうつむいている。彼が困惑しているのには、実は明確な理由があった。

約一年前、ウーノスから遥か西方の地域を治める『キャスロック王国』でフラップはエレオニールに出会った。

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エレオニールは王室直属の騎士団『インペリアルオーダー』に所属していた。その中でも彼女は断トツの強さを誇り、その名を轟かせていた。しかし、騎士団長の座を巡る権力争いへ巻き込まれてしまう。挙句の果てに『ヘルベルト』という男から反逆罪の濡れ衣を着せられ、騎士団を追われる身となった。エレオニールはそれを機に完全にメインシナリオのロールプレイを止め、私怨を晴らすためなら手段を択ばないプレイヤー、いわゆる不正者チーターとなった。

エレオニールは初対面でフラップが観測者デバッカーだと見抜き、追跡管理トラッキング前の不具合バグの情報をリークしてくれたら大金を払うと持ちかけた。フラップはさんざん迷った挙句、それに応じた。将来、《ある仮説》を証明するために大金が必要になると予測してのことだった。

「どうする? 返答によっては私にも考えがある」エレオニールが返答を促す。

フラップは苦悶の表情を浮かべた。もし誘いを断って過去の不正行為を暴露されたら、フラップはアカウントを剥奪されるだろう。それはおそらくこの世界での死を意味する。かと言って、エレオニールを連れて各地で不具合バグを探し回っていれば、他の観測者デバッカーに目を付けられるのは必至である。どうしたら悪目立ちすることなく、自分の目的を遂行できるのだろう。フラップは黙り込んで考えた。

「ねぇ、探求者シーカーは魔王を倒した人が一番偉いんでしょ? エレオニールも魔王を倒すために旅しているんだよね?」

「以前は私も王の勅命で魔王討伐に命を懸けていたが、今は別の目的がある」

「じゃあ、私と一緒だね。探求者シーカーにはずっとなりたいと思ってたけど、実は私も魔王討伐には興味ないんだよね」

リンネが舌を出して笑った。

不意にしばらく俯いて考え込んでいたフラップが、何かを閃いたかのように顔を上げた。彼の瞳には鋭い光が宿り、口元には自信に満ちた微笑が浮かんでいる。その姿はまるで暗闇の中で一筋の光を見つけたかのようだった。

彼はその場をぐるりと見渡した。新たな決意と計画が頭の中で鮮明に組み上がっていくのを感じているかのように、フラップの顔には確信の色が浮かんでいた。

「よしわかった。そこまで言うのなら、エレオニールと一緒に旅へ出ようじゃないか」

「えっ、ほんとに?」リンネが声を弾ませた。目を輝かせてフラップを見つめる。

「ただし、一つだけ条件がある」

「どんな条件だ。言ってみろ」エレオニールは鋭い目つきでフラップを見つめた。その眼光はまるでフラップの心の奥底を見透かすかのようだった。

「それは……」

フラップは大きく息を吐き出した。次の一言に込められた重さを感じさせるように、彼は間を置いてから重々しく口を開いた。

「魔王デモンゲノムの討伐だ」

思いもかけないフラップの言葉に、エレオニールとリンネはしばし絶句した。エレオニールの瞳には一瞬驚きが走り、リンネは口を開けて呆然とフラップを見つめた。辺りには静寂が訪れ、その場の空気が一瞬で張り詰めた。

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「魔王デモンゲノム…本気か?」エレオニールが絞り出すように呟いた。その声には、絶望にも似た驚愕が滲んでいた。

デモンゲノムは数多くの有名なトッププレイヤーたちがパーティーを組んで挑んだが、ことごとく敗れ去った最終魔王ラスボスであり、その討伐はほぼ不可能とされていたのだ。デモンゲノムに立ち向かって敗れ去った者たちは皆、装備品、所持金、所持アイテムを全て失う設定となっていた。しかし、もし討伐に成功した暁には、宝剣オルフェリオン、超古代魔法ハイエンシェントアストラヴェインの巻物スクロール、次期拡張パッケージのアーリーアクセス権など、豪華な特典が運営より約束されていた。

「そうだ、本気だ」とフラップは強い意志を込めて答えた。「それが俺の条件だ。共に戦い、魔王を討つ。それが俺たちの目的だ」

エレオニールはその言葉をじっと噛み締めるように聞き、そして静かに頷いた。リンネもまた、緊張の面持ちでその決意を受け入れた。

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